鈴木さんにもわかるネットの未来を読んで
タイトルがまるで読書感想文みたいになりましたが、今回の記事は感想文というより要約です。
この本は、ニコニコ動画を運営しているニワンゴの親会社ドワンゴの代表を務める川上量生さんが、スタジオジブリの鈴木敏夫さんにネットについてわかりやすく教えられるように書かれたそうです。
川上量生さんと鈴木敏夫さんの関係についてはWikipediaなりを参照してください。
ネットについて詳しいつもりでいた僕ですが、この本の中には知らないこと、気が付かなかったことがたくさん書かれていて、とても内容が濃かったので、章ごとにまとめて頭を整理しようと思いました。
1. ネット住民とは何か
ネットを使用する人には、ネットをツールとして利用する人とネットを住処としている人の二種類がいます。
後者は今では少数派になっているものの、ネットでの発言に慣れ、滞在時間も長いため、大きな発言力を持ちます。そのため、ネットの流行を作り出しているのは彼らです。炎上も彼らが中心となることが多いです。
前者は、最近の若い世代に多く、現実世界とネットの区別をつけません。
前者と後者では性質が違うため、新大陸における原住民と移民者のように対立が起こるのです。
2. ネット世論とは何か
マスメディア、ネットメディア、ソーシャルメディアなど様々なメディアがあります。
ソーシャルメディアとは、単にネットの力で強力に進化した口コミと考えれば良いです。単純な概念を小難しい言葉で表現するのは、ネットの風潮です。
ネットメディアの誕生によって、マスメディアが嘘の情報を流し続けるのは難しくなりましたが、ネットメディアが常に真実を伝えているわけではなく、誰でも情報操作ができるようになったために嘘も多いのです。
3. コンテンツは無料になるのか
コンテンツというのは、質が低かろうが、原価がゼロであろうが、欲しければお金を払うものであります。しかし、違法コピーのせいで、ユーザーが持っているコンテンツに対する価格の相場感が崩れてしまいました。
4. コンテンツとプラットフォーム
プラットフォームとは、コンテンツを流通させるための仕組みと川上さんは定義しています。
コンテンツの提供側は、プラットフォームの催促手段として利用されかねません。任天堂のように、プラットフォーム側もコンテンツを作り、利益をあげている所こそ、コンテンツのクリエイターに優しい環境だと述べられています。
5. コンテンツのプラットフォーム化
プラットフォームに搾取されないためには、コンテンツ側は、プラットフォームに依存せずに顧客との接点を持つことが必要です。
6. オープンからクローズドへ
コンピューターの歴史において、つい最近までは、誰でも自由に使えるオープンなサービスが会員登録などが必要なクローズドなサービスよりも、ユーザーを集めやすいという利点により勝ってきました。
しかし、FacebookやiPhoneが登場した時から、オープンよりもクローズドに時代は流れ始めました。
その理由としては、膨大な情報を全て提示されるよりも、自分の身の回りの必要な情報だけを人々は必要とし始めたからです。
企業側もオープンにしなくても勝てるのであれば、クローズドにする方が儲かります。
7. インターネットの中の国境
国家が国内のネットを支配しようとするのは当然の流れであり、支配して国境を作る方法は二つあります。インターネットのアクセスログの保存と提出を義務づけ、国民のネット閲覧を監視する方法、そして、自国に従わない海外のサーバーへのアクセスに制限をかける方法の二つであり、前者については徐々に進んでいます。
しかし、アクセスログによる監視は、数が多すぎるなどの理由で現実的ではありません。簡単なのはアクセス制限です。
日本が中途半端な規制を作って、国内の企業だけ守らなければならないようになれば、実質は海外企業の保護政策のようになってしまいます。規制をするのであれば、ちゃんと国境を作って、海外企業の競争力を下げた方が良いのではないかと考えが述べられています。
8. グローバルプラットフォームと国家
ネットによって国家の機能はグローバルプラッオフォームに代替されます。大きくは、税、法律、戸籍の三つが奪われます。
サービスを提供しているサーバーが海外にあると、国内の法律は適用できません。そのため、グローバルプラットフォームの収入に対して課税もできません。
そして、個人情報も国家よりもグローバルプラットフォームの方が集めやすくなっています。原因は、いつの間にか同意させられている利用規約とプライバシーポリシーの陰に隠れた事前同意無しの個人情報収集です。
9. 機械が棲むネット
ネット社会の発達と共に、人々は様々な機械に囲まれるようになりました。機械が人間にとってかわるのではないかと不安に感じる人もいます。実際、株式のような知的な仕事も機械が行うようになっています。
だからといって、人間がすぐに駆逐されてしまうかというとそう単純ではありません。ある生態系において、生物が増えすぎて餌が足らなくなって、数が減ってしまったように、機械も壁にぶち当たっています。株の場合であれば、機械による取引が増えることで価格変動が小さくなり、あまり儲からなくなってしまいました。
人間と機械は共存していくようになります。ただし、人間は機械に合わせないと生活できなくなるでしょう。
10. 電子書籍の未来
あらゆる利点から、紙の本は電子書籍に取って代わられるでしょう。
電子書籍自体は、今のように単に紙の本を電子化しただけでなく、音声や動画がつかされたり、他人と読書体験を共有できるようになるなど進化していくと予想されます。
また、出版業界は、出版社自身がプラットフォームを作って対抗しない限り、縮小していくのは必然です。
最後に川上さんは、有料書籍間でのハイパーリンク網が新たな知のネットワークを構築するのではないかと期待しています。
11. テレビの未来
テレビvsインターネット放送についての章です。テレビの特徴は、チャンネル数に制限があり、同時に大勢の人に同じ映像を届けられることで、インターネット放送の特徴は、チャンネル数がほぼ無制限である代わりに、まだテレビほどたくさんの人に同時に発信するのは技術的に難しいことです。
同時配信の技術的な問題は将来的には解決されるでしょうが、インターネット放送がテレビに完全に取って代わるには、インターネット放送にしかできない差別化要因が必要です。
差別化ポイントとして考えられるのが、双方向性と視聴者ひとりひとりに別々の映像を見せられる点です。この二つの特徴を上手く利用すれば、インターネット放送がテレビにとってかわることはあり得ます。
その際には、テレビの強みであった大勢が同時に同じ映像を見るという構造を崩さないために、多チャンネル化には慎重になるべきです。また、潜在的な競合として大勢のユーザーが日常的に利用しているサービスのUIにコンテンツが組み込まれると、テレビ局の立場が脅かされます。
テレビ局は、自らプラットフォームを作り、自社製のコンテンツを配信していくことが肝になるでしょう。
12. 機械知性と集合知
知性が集まって頭が良くなるのは稀な現象だと川上さんは考えています。頭の悪い人間がたくさん集まるよりも一人の優秀な人間の方が優れた能力を発揮します。また、人が集まると速度は遅くなります。
それでは集合知が何のために使われるのかというと、人間の集合から計算されるデータを機械知性が利用し、マーケティングやコントロールに使うためなのです。
13. ネットが生み出すコンテンツ
UGC(User Generated Content)とは、ユーザーが提供するコンテンツで、たいていの場合は無報酬です。クリエイターは自分のコンテンツを見れくれる人がおり、賞賛されることが十分な報酬となります。
UGCがプロのコンテンツより人気になる例は、特に日本でよく見られます。理由として、ニコニコ動画でユーザーがコメントを残したりするように、ユーザーもコンテンツに参加することができるため惹きつけられるのだと思われます。
しかし、UGCも成功してくと、だんだんと商業的な色味が出てきて、新たなコンテンツ業界が誕生することは避けられないことなのでしょう。
14. インターネットが生み出す貨幣
BitcoinとはP2Pで取引をする仮想通貨です。通貨の概念を変える画期的な仕組みだと持て囃されましたが、認証の遅さとコストの高さから決済に向かない、大量の取引データを処理するのに向かない、といった理由から従来のサーバー型で管理する方がはるかに効率が良いです。
Bitcoinの仕組みは変更できないと一般的には考えられていますが、実際には可能です。取引データが肥大化すると、将来的には仕様変更が起こり、取引所が決済を代行して中央銀行化してしまう可能性は大いにあります。
15. ネットとリアル
IT革命とは、ネットにおいて人々が誇大妄想をし、言い過ぎたものは否定されますが、多くが実現してしまった過程であると考えられます。
ネットとリアルの融合とは、現実世界の人々のバーチャルな世界の妄想とネットの世界がひとつになる過程であると理解できるのです。
以上で要約は終了です。要約したといっても、僕の興味のある部分に偏ってピックアップしてしまっていますし、わかりにくいところもたくさんあると思うので是非買って読んでみてください。